October 3, 2023

キャッシュレス機能付きIDカード 地方自治体の奮闘

これは本当に面白い取り組みですし、日本の自治体は見習うべきです。

小さな地方自治体だからこそ真剣に取り組めばできることは多い、そんな一例だと思います。

マニラ首都圏内の人口7000人程度の小さな町(バランガイ)では住民の門戸を一つずつ訪問し個人情報を取得、そして大手通信会社と協力して市民IDカードを発行、しかもそのIDにはキャッシュレス機能が付いていてデビッド機能のほか、公共施設(体育館など)の予約支払いもできるとのこと。フィリピンの公立体育館を利用したことのある私としてはこれまでの煩雑な手続きがキャッシュレスになるなんてにわかに信じられません。

もちろん感染対策にも一役買ってくれるでしょう!詳細は以下の原文より

NNAより抜粋

自治体がIDカード発行 国内初、非現金社会を構築へ

フィリピンのマニラ首都圏マンダルヨン市で、キャッシュレス社会の構築に向けた取り組みが進んでいる。住民の情報をITで管理したID(身分証明書)カードを国内で初めて本格的に発行し、商店での買い物の支払いや公共施設の利用などが可能になった。新型コロナウイルスの感染対策で電子決済が急拡大する中、さらに一歩踏み込んだ動きが広がりそうだ。

マンダルヨン市ナマヤンは人口わずか7,000人のバランガイ(最小行政単位、村に相当)だ。住民の数は地場大手財閥の従業員より少ないが、キャッシュレス社会の「実験」を進める上で管理が行き届く人口規模が利点になっている。

「新型コロナで人の移動が制限されている現在は、プロジェクトの実行段階に入る最大の好機だ」。ナマヤンのバランガイ長であるビクター・エマニュエル・フランシスコ氏は強調する。

■銀行口座は不要に

キャッシュレス社会を構築するプロジェクトは、2018年に動き出した。バランガイの職員が住民の家を一軒一軒回り、個人情報を細かく収集。通信大手PLDT傘下の電子決済サービス「ペイマヤ」が協力し、今年10月下旬にサービスを始めた。

ナマヤンが発行するIDカードの用途は多様だ。身分証や電子マネー、デビットカードの機能を持つほか、バスケットボールコートやスポーツジムなどの公共施設を煩わしい手続きなしに利用することができる。

バランガイ職員には、2021年から給与もIDカードに支給されるという。職員のベロニカ・バサさん(39)は、銀行口座を保有していない。「次の給料からIDカードを銀行口座や財布代わりに使おうと考えている」と話す。

ペイマヤは計60の政府、自治体から電子決済業務を請け負っている。シャイレシュ・バイドワン社長は「ナマヤンでのプロジェクトは草の根レベルで大きな変化を生んでいる」と説明する。

バイドワン氏によると、新型コロナの感染対策にも効果的として、デジタルシフトを検討する自治体は増えている。実際、マニラ市も高齢者や障害者などに対象を絞り、試験的に同様のIDカードの展開に取り組んでいる。

新型コロナの市中感染が拡大した2月以降、現金偏重の社会はつまずいた。外出・移動制限措置により、市民は行きたい場所に行くことが難しくなり、感染リスクから現金のやりとりも敬遠された。

一方、中央政府が自治体を通じて国民に支給したコロナ給付金は、多くが銀行口座を持たない中、現金で手渡しするしか手段がなかった。コロナ対策法の第3弾には、追加の現金給付策が盛り込まれているが、ナマヤンでは今後、IDカードを通じた支給が可能になる。

米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは、フィリピンのデジタル経済は25年までに現在に比べ30%拡大すると予測する。生まれた時からインターネットが身近に存在している「デジタルネーティブ」世代のほか、中小零細企業の間でもITの浸透が進むとの見方を示す。

中央政府も行政サービスの電子化を進めている。そのインフラ整備が国民IDプログラムだ。3段階で実行する登録手続きのうち、既に第1段階で900万人以上が登録を終えた。銀行口座を持たない低所得層への金融サービスの提供や、政府による給付金の迅速な支給が可能になる見込みだ。

「ペーパーレス政府を実現する」。ドゥテルテ大統領はデジタル経済の推進に向け、国民にこう誓っている。21年度には、通信インフラを整備する国家ブロードバンド計画も進めていく方針を示している。

■個人情報の保護がカギ

キャッシュレス社会には便利さの反面、課題もある。ナマヤンが発行するIDカードは、住民が行政サービスを効率的に利用できる一方、そのデータはサービスの品質向上を目的に全て収集される。

バランガイ長であるフランシスコ氏は「自治体が医薬品を調達する際、どの種類をどれだけ購入するのかを知る必要がある」と主張する。

通信インフラが脆弱(ぜいじゃく)で、ハッキングが容易とされるフィリピンでは、データが盗まれる危険性も高い。米市場調査会社IDCのアジア太平洋地域の責任者、ジェラルド・ワン氏は「サイバー攻撃を受ければ、行政サービスへの影響は深刻になる」と警鐘を鳴らす。

米系IBMフィリピンでセキュリティーサービス販売部門の責任者を務めるアンドレス・ヨマス・カペラン氏は「サービスを提供する政府の信頼性が高くなければ、デジタルIDへの登録に住民の理解を得ることは難しい」と指摘する。

フィリピンではこれまで、現金主義が根強く、電子決済の信頼性は低かった。コロナで状況は大きく変わったが、キャッシュレス社会に対する信頼を構築するには、管理が不十分とされる個人情報の扱いなどで自治体が透明性を高める必要がありそうだ。